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4.油脂の構造と酸化に関する研究
油脂の構造、特に脂肪酸の構造と酸化安定性に関する研究を行っています。
内容
油脂の酸化は、油脂の構成成分である脂肪酸のところで起こります。脂肪酸には飽和脂肪酸(オクタン酸(C10:0)、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0))、モノ不飽和脂肪酸(パルミトオレイン酸(C16:1n-7)、オレイン酸(C18:1n-9))、多価不飽和脂肪酸(リノール酸(C18:2n-6)、α−リノレン酸(C18:3n-3)、エイコサペンタエン酸(EPA, C20:5n-3)、ドコサヘキサエン酸(DHA, C22:6n-3)など多くの種類が存在します(図1)。これらの中で、最も酸化されやすい脂肪酸は多価不飽和脂肪酸です。
図1 各種脂肪酸の構造
図2には非常に酸化されやすい多価不飽和脂肪酸であるDHAの構造を示してあります。脂肪酸が酸化されるとき、活性酸素により攻撃を受ける場所は、2つの二重結合に挟まれたメチレン(活性メチレン)に結合した水素です。よって、構造中に二重結合数が多い脂肪酸(すなわち活性メチレンの数が多い脂肪酸)ほど酸化されやすくなります。
魚油の中には、EPAやDHAのような構造中に多くの二重結合を有する不飽和脂肪酸が特徴的に存在します。そのため魚油は他の油脂と比較して非常に酸化されやすい油であると直感的にわかると思います。
図2 不飽和脂肪酸が酸化される部分
ところが、EPAやDHAは、水の中で安定分散させると、EPAやDHAより二重結合が少ないリノール酸より酸化しにくくなることが知られています。油として存在するときは非常に酸化しやすいにもかかわらず、水中で分散させるだけで酸化安定性が高まるというのは本当に不思議です。実は、なぜ酸化安定化性が高まるのかに関してはきちんと解明されていないのです。
そこで食品保全化学研究室では、水の中に分散したEPAやDHAの酸化安定性に関して精査したところ、EPAやDHAを水中に安定分散したものは、酸化的に安定となるばかりでなく、他の脂肪酸に対して抗酸化的に振る舞うことを発見しました。今後もこの研究に関して深く掘り下げていく予定です。
N. Gotoh, Y. Noguchi, A. Ishihara, K. Yamaguchi, H. Mizobe, T. Nagai, I. Otake, K. Ichioka, and S. Wada, Highly unsaturated fatty acid might act as an antioxidant in emulsion system oxidized by azo compound. J. Oleo Sci. 59, 631-638 (2010). [Paper (pdf)]